10月10日 失敗しない遺言のすすめ

 よく「遺言の勧め」という言葉を聞く。遺言を書いておけば自分の死後、遺産の分配に関し相続人の間で争いがなく円満に収まるというわけだ。

 たしかに遺言によって子どもたちは「お父さん(あるいはお母さん)はそんな気持ちだったんだ」と理解して、多少不公平と思っても遺言通りに分ける、というケースは少なくない。

 しかし、遺言を書いておきさえすれば問題は解決、といかないこともある。それは、遺言の書き方にそもそも問題がある場合。

 私の取り扱ったケースであるが、A氏の遺言は自筆で長々と5枚にわたって書きつづっていた。最後に年月日・署名・押印があって自筆証書遺言としての形式に問題はないのだが、その内容が物議をかもした。A氏には沢山の不動産や預金、株式があった。①宅地・建物は長男に、②ゴルフの会員権と株式は二男に、③預金は長女と二女と半分ずつ、とここまでは明快だが、その後に「末っ子の三女は私が60歳の時に生まれたいわゆる恥かきっこだ。この子の行く末が気になる。裕福な農家に嫁げばよいが、貧乏なサラリーマンと結婚することになったら哀れだ。そのときは私の持っている田畑すべてを末っ子にやる」ということが書いてある。A氏が死亡したときは末っ子は未だ高校生であった。そして遺言の末文に「その他動産など一切の財産は長男に相続させる。」という一文があった。末っ子の言い分は田畑は自分が相続するのだというし、長男は、「田畑の相続は『お前が貧乏なサラリーマンと結婚したら』という条件付で、その条件は達成されていないから田畑はその他一切の財産に含まれ自分が相続するのだ」と主張する。結局家裁の調停に持ち込まれ、そこで何とか話し合いがついたが、後に問題を残す遺言というのは、特に自分で考えて自分で密かに作成する自筆証書遺言に多い。

 これが公正証書遺言なら、法律に詳しい公証人が「これでは後に解決に問題を残すから、こういう表現に変えましょう」と誘導して、解釈に疑問を残す余地のない文章にしてくれる。しかし公正証書遺言にするとなると、戸籍謄本、印鑑証明、預金残高証明、不動産登記簿謄本などを揃え、証人2人と共に公証人役場に出向かねばならず、しかも有料だ。ついつい億劫になってしまう。  

 そこで私が勧めるのは、自筆証書遺言を弁護士に相談しながら書くというやり方だ。そうして問題なく出来上がった遺言を弁護士か子どものうちの誰かに預けるとか、貸金庫に入れておくとかすればよいと思うのだ。こんなことにも弁護士を利用してください。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。