借入債務を放置してよいか

過払い金などの権利が時効にかかってしまうことがあることを,「なぜ放っておいたのか – 過払い金の時効 -」と題して説明しました。

その逆で,借入金などの債務を,時効にかかるまで意図的に放っておくことは許されるでしょうか。

時効待ちのリスク

貸金業者からの借入債務は,5年で消滅時効にかかります。

債務整理の方針の一つとして,債務を放置して消滅時効の完成を待つ方法を,一般に「時効待ち」といいます。

時効待ちの方針を取ることは,倫理的にはともかく,法律的に禁止されてはいません。

しかし,債権者は通常,債権の回収を諦めてはくれません。そして,債務者が「放置」して対話に応じない以上,時効を止めるには,訴訟を提起するほかありません。

債権者から訴訟を提起されたら,結局は債務整理の最終的な解決が遅れることになります。また,それだけでなく,訴訟になれば,支払いを延滞したことによる遅延損害金も上乗せされた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクもあります。

弁護士の説明義務

最高裁の判例(平成25年4月16日判決)では,時効待ちの方針を取った債務者代理人弁護士に対し,依頼者に対する説明義務違反が認められました。

当該事案は,他社から回収した過払い金で債務を弁済することが可能な事案でした。

弁護士は,債権者に対し,債務全額ではなく,元本の8割での和解案を提示しましたが,拒否されたため,時効待ちを選択しました。

判決は,弁護士は,依頼者に対し,時効待ちのリスクを説明するとともに,回収した過払い金で債務を弁済するという選択肢があることも説明すべき義務があるとした上で,そのような説明が尽くされていないと認定しました。

時効待ちはお勧めできない

それでは,弁護士がリスクについて十分に説明を尽くし,依頼者が納得したのであれば,時効待ちを選択することは許されるのでしょうか。

最高裁判決も,そのような場合でもダメだとは言っていません。

しかし,たとえ依頼者が了解したとしても,時効待ちにリスクがあることは変わりません。また,債権者に対して必ずしも誠実な態度とは言えない面もあると思います。

最高裁判決には,時効待ちは原則として適切な債務整理の手法とは言えない,との補足意見も付いています。

そう考えると,依頼者に対し,時効待ちを積極的に勧めることはできないように思います。